
不動産譲渡時の所得税を徹底解説|基礎から特例・確定申告まで完全ガイド
不動産を売却すると所得税がかかりますが、控除や特例を活用すれば大幅に節税することができます。
課税されるのは「売却で得た利益(=譲渡所得)」の部分だけであり、さらに「3,000万円特別控除」や「軽減税率の特例」などを使えば、課税額を減らすことが可能だからです。
たとえば、マイホームを4,000万円で売り、取得費や経費を差し引いた後の利益が1,000万円でも、3,000万円特別控除を使えば課税対象はゼロになります。
つまり、控除を知らないだけで数十万円〜数百万円の損をしてしまうこともあるのです。
不動産を売る前に「所得税の計算方法」と「特例制度」を理解しておくことで、余計な税金を払わずに済みます。この記事を読めば、難しい税の仕組みもスッキリ整理できます。
不動産譲渡時の所得税
不動産譲渡にかかる税金の種類とは?
不動産を売却したときに発生する税金は、主に「所得税」と「住民税」の2つです。
これらは「譲渡所得」という“売って得た利益”に対して課されるもので、単純に売却額に税金がかかるわけではありません。
- 所得税:不動産を売って得た利益に対して国に納める税金
- 住民税:同じ利益に対して地方自治体に納める税金
- 復興特別所得税:2037年まで一時的に加算される税金
たとえば、4,000万円で購入した家を5,000万円で売った場合、利益は1,000万円です。
この利益部分に対して税金がかかります。
しかし、控除や経費を差し引けば課税額は大きく下げられるのです。
所得税と住民税の関係をわかりやすく解説
「所得税と住民税、どちらも同じようにかかるの?」と感じる方も多いでしょう。
実は、この2つはセットで考えるのが基本です。
所得税は国税、住民税は地方税で、同じ「譲渡所得金額」をもとに計算されます。
- 長期譲渡所得(所有期間5年超)→所得税15%+住民税5%
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下)→所得税30%+住民税9%
つまり、5年を境に税率が大きく変わります。
長期所有ほど税率が低くなるため、「売却のタイミング」を見極めることが節税のポイントです。
譲渡所得とは何か?課税の対象となる利益の考え方
譲渡所得とは、「不動産を売って得た利益」のことです。
ただし、売却額すべてが課税対象ではありません。
取得費や売却時にかかった経費、そして特別控除を引いた残りが「課税譲渡所得金額」となります。
- 収入金額 −(取得費+譲渡費用)− 特別控除額=課税譲渡所得
たとえば、家を6,000万円で売り、購入費・経費が合計3,000万円、控除が3,000万円あれば、課税対象は0円になります。
つまり、税金が発生しません。
このように「課税対象になるのは純粋な利益だけ」という点を理解しておくことが重要です。
不動産譲渡で課税される「譲渡所得」の基本
不動産の売却で課税される「譲渡所得」は、正しく計算すれば大きな節税ができます。
ここでは、所得税の基本的な考え方と、計算の仕組みを具体的に説明します。
課税譲渡所得金額の計算式と構成要素
不動産売却で課税される金額は、次の式で計算します。
- 課税譲渡所得金額=収入金額 −(取得費+譲渡費用)− 特別控除額
つまり、「売って得た金額」から「買った時の費用」や「売るための経費」を引いた残りが、課税される部分です。
税務上は「取得費」や「譲渡費用」の証拠書類(契約書・領収書など)を必ず保管しておく必要があります。
これがないと、取得費を「概算取得費(売却額の5%)」として計算され、結果的に税額が高くなってしまうので注意しましょう。
収入金額・取得費・譲渡費用・特別控除額の内訳
課税額を正しく求めるためには、4つの要素を理解することが大切です。
- 収入金額:売却代金そのもの(契約書に記載の金額)
- 取得費:購入費用+登記費用+仲介手数料など
- 譲渡費用:売却時の仲介手数料・測量費・解体費など
- 特別控除額:条件を満たす場合に差し引ける金額(例:3,000万円特別控除)
たとえば、売却額5,000万円・取得費2,000万円・譲渡費200万円・控除3,000万円の場合、課税所得は0円になります。
控除をうまく使えば「税金ゼロ」で済むこともあるのです。
所有期間による区分|短期譲渡と長期譲渡の違い
不動産をどれだけの期間所有していたかで、税率が大きく変わります。
- 短期譲渡:所有期間が5年以下(高税率)
- 長期譲渡:所有期間が5年を超える(低税率)
たとえば、2020年に購入して2025年に売却した場合は「短期譲渡」となり、所得税30%+住民税9%が課税されます。
一方、2024年末以降に売却すれば「長期譲渡」として税率が20%程度に下がります。
このように、「あと1年待つだけで税金が半分近くになる」ケースもあるため、売却時期の見極めがとても重要です。
不動産譲渡で所得税がかからないケース
実は、すべての不動産売却に税金がかかるわけではありません。
国が定める一定の条件を満たすと、非課税になるケースも存在します。
ここでは代表的な免税・非課税パターンを紹介します。
強制換価や公共目的による譲渡の場合
公共事業のために土地が収用された場合や、債務整理の一環として強制的に売却された場合は、税金がかからないことがあります。
たとえば、道路拡張や区画整理のために国や自治体が買い取ったケースなどです。
- 国や地方自治体による強制収用(公共事業)
- 差し押さえ・競売などの法的処分
- 債務返済に充てるための売却
こうしたケースでは、「売り手の意思によらない売却」であるため、課税対象外とされています。
寄附・文化財・物納による非課税の条件
国や自治体、公益法人に寄附した場合や、相続税の物納のために不動産を譲渡した場合も非課税になります。
- 国・地方公共団体への寄附
- 文化財の譲渡(文化財保護法による)
- 相続税の物納としての譲渡
これらは「社会的意義が高い譲渡」として、税法上の優遇を受けられます。
ただし、国税庁や税務署の承認が必要なため、事前確認が大切です。
事業所得・雑所得として扱われるケースとの違い
不動産の売却が「一時的なもの」ではなく「事業としての取引」に該当する場合は、譲渡所得ではなく事業所得や雑所得として扱われます。
たとえば、不動産転売業者や継続的な売買を行う個人事業主などです。
- 事業的規模での売買:事業所得として課税
- 副業的な不動産転売:雑所得として課税
- 一度きりの売却:譲渡所得として課税
分類を間違えると税率や控除の扱いが変わるため、判断に迷ったら税理士に相談しましょう。
不動産譲渡の特別控除をわかりやすく解説
不動産売却での節税のカギは「特別控除」を知っているかどうかです。
控除を使えば、課税所得を大幅に減らし、場合によっては税金ゼロにすることも可能です。
自宅売却時の3,000万円特別控除
もっとも有名な制度が「3,000万円特別控除」です。
自宅(居住用財産)を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円まで控除できます。
- 所有期間に関係なく適用可能
- 転居後3年目の年末までの売却も対象
- 同一物件での適用は一度きり
たとえば、譲渡所得が2,500万円なら税金はゼロ。
この控除を知らずに申告しなければ、数百万円の損をすることもあります。
公共事業収用に伴う5,000万円特別控除
道路拡張などの公共事業で土地を収用された場合は、5,000万円までの特別控除を受けられます。
また、同時に「代替資産取得特例」と呼ばれる制度もあり、条件を満たせば課税を繰り延べることも可能です。
区画整理・再開発などによる2,000万円・1,500万円控除
都市再開発や区画整理事業に伴って土地を譲渡した場合は、最大2,000万円または1,500万円の控除を受けられます。
この制度は公共性が高い事業に協力した人を支援するためのものです。
農地・低未利用地などの特別控除制度
農地を農業委員会を通じて譲渡した場合や、都市部の低未利用地を有効活用目的で売却した場合も控除対象です。
控除額は最大800万円〜100万円で、条件を満たすと税負担を軽減できます。
不動産譲渡に関する主な特例制度
不動産譲渡では「控除」とは別に、税金を軽減・繰り延べできる特例もあります。
上手に活用することで、節税効果はさらに高まります。
10年超所有マイホームの軽減税率の特例
マイホームを10年以上所有していた場合、長期譲渡よりもさらに低い税率で計算できます。
税率は課税所得6,000万円以下で10%、6,000万円超で15%。
これは「3,000万円控除」との併用も可能で、非常に強力な節税策です。
居住用財産の買い換え特例(課税繰延制度)
マイホームを売って新しい家を購入する場合、課税を次回の売却まで繰り延べられる制度です。
「住み替え特例」とも呼ばれ、譲渡益をすぐに課税されずに済みます。
ただし、新居の購入や建築が譲渡後一定期間内であることなど、条件が厳しいため注意が必要です。
相続税の取得費加算の特例
相続した不動産を売却する場合、支払った相続税の一部を「取得費」に加算できます。
これにより、譲渡益を小さくして課税額を減らせる仕組みです。
たとえば相続税を300万円支払っていた場合、その分を取得費に上乗せできます。
特例の併用ルールと適用の注意点
特例は併用できない組み合わせもあります。
たとえば、「3,000万円控除」と「買い換え特例」は同時に使えません。
どの制度が最も有利かをシミュレーションしてから選びましょう。
確定申告の手続きと必要書類
不動産を売却した場合は、翌年に必ず確定申告を行う必要があります。
控除や特例を使うためにも、正確な申告が欠かせません。
不動産売却時に確定申告が必要な理由
売却で利益が出た場合、税務署に「いくら利益が出たのか」を報告する義務があります。
利益がゼロまたは赤字でも、控除を使う場合は申告が必要です。
申告書の記入方法と提出の流れ
申告は「確定申告書B」と「譲渡所得の内訳書」を使って行います。
税務署に直接提出するか、e-Taxでオンライン申告も可能です。
期限は翌年の2月16日〜3月15日まで。遅れると延滞税が発生します。
必要書類一覧(契約書・領収書・登記簿謄本など)
申告には多くの書類が必要です。
代表的なものは以下の通りです。
- 売買契約書(購入・売却時)
- 仲介手数料・登記費用などの領収書
- 登記簿謄本
- 特例を受けるための証明書
電子申告(e-Tax)での提出方法と注意点
e-Taxを利用すれば、自宅からオンラインで申告できます。
マイナンバーカードやICカードリーダーが必要ですが、控除の自動計算など便利な機能もあります。
ただし、添付書類はPDF化してアップロードする必要があるため、事前に準備しておきましょう。
不動産譲渡と相続・贈与との違い
「相続や贈与でも税金がかかるの?」と疑問に思う方も多いはず。
実は、不動産の「譲渡」「相続」「贈与」では課税の仕組みがまったく異なります。
相続による取得と譲渡の課税関係
相続で不動産を受け継いだだけでは課税されません。
しかし、その相続した不動産を売却すると「譲渡所得税」が発生します。
このとき、被相続人(亡くなった人)の取得日・取得費を引き継いで計算します。
贈与による不動産移転と課税の違い
贈与の場合は、譲渡ではなく「贈与税」が課税されます。
ただし、贈与した側が不動産を安く売った場合は「みなし譲渡」として譲渡所得税が発生することもあるため注意が必要です。
譲渡所得税と贈与税・相続税の関係性を整理
不動産の税金は「譲渡税」「贈与税」「相続税」でそれぞれ異なるルールが適用されます。
混同すると大きな損をするため、税の種類ごとに理解を深めておきましょう。
まとめ
不動産を売却するときに避けて通れないのが「所得税」です。
しかし、制度を理解すれば、正しく節税することができます。
- 不動産売却では「譲渡所得」に課税される
- 3,000万円特別控除や軽減税率を活用すれば税負担を減らせる
- 確定申告で正しく申告することが節税の第一歩
不動産の税金は難しく見えますが、仕組みを知れば怖くありません。
この記事を参考に、あなたの不動産取引を“損しない売却”に変えていきましょう。